第9回日本ラブストーリー大賞 1次選考あと一歩の作品(14)

『0.012』/吹雪白蔵 FUBUKIShirozo 

 あらすじ&コメント

僕の職業は、深夜にクライアントの家に行き、彼らが眠りにつくまでピアノを弾くプライベートピアニスト。ある日、僕は仕事帰りに翼を持つ人に出会う。その人から謎の予言を受けて家に戻ると、かつて失踪した彼女の泥の足跡があった。僕はそれを手がかりに彼女を捜し始め、東京の片隅に隔離された沼があることを知る。その沼は死のガスを発していると噂され、自殺願望者が集まっていた。完全に隔離された沼に防護服で乗り込むと、そこで見つけたものはガスによって変異した繭に包まれた蛹人間たちだった。蛹から孵化した者は、昆虫のような生き物に変異していた。彼女を見つける前に意識を失った僕は、沼の研究所に運びこまれ、そこで彼女の蛹を発見したが……。

タイトルの「0.012」というのは、個人が持つ遺伝子ゲノムにおいて、何らかの異常が現れる値。なぜ蛹になってリス人間になったり、トカゲ人間になったりするのか、その謎は最後まで解けないままで、その孵化した様子はかなりグロテスクで奇異な感じを受けますが、文章の美しさに乱れはなく、判然としないまま粛々と物語は進んでいきます。失踪した彼女、マコリーヌの描写はとくに流麗な筆致で描かれていました。

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